ポイント:システム構築を外部委託、契約形態、請負契約、派遣契約、委任契約、自社の保守体制の確立
システムの開発、運用を外部に委託する傾向が多くなっている。これはシステムの開発において、開発のピーク時に必要な要員数を自社内で抱えられないこと、システムの運用においては不規則な時間帯での専門的な知識を必要とするコンピュータのオペレーションに自社の要員を継続的に用意できないこと、などがその理由である。
私は、上記のような理由であれば、開発、運用の外部委託もよいと思う。但し、私のスタンスは、情報システムは経営資源である「情報」「知識」を管理するものである。できれば、自社のITリテラシーの向上、ITスキルアップをはかり、極力自社でシステムのメンテナンスをしていくべきだと考えている。大規模システム、基幹システムは難しいかもしれないが、ナレッジマネジメントの考えにもとづく営業支援システムや顧客管理システムなど情報系のシステムは、その努力が必要だと考える。情報系のシステムは機能、使い勝手によっては経営に使えるかどうか分かれてしまい、経営に使えない情報系のシステムはその役割を半分も果たさない。私は「経営とは自社のコアを固めながら、環境変化にあわせてPDCAサイクルをまわしていくもの」と考えている。経営がPDCAサイクルをまわしていくものである以上、経営を支援するシステムも柔軟な対応が必要である。
このような理由で、私は特に中小企業の情報系のシステムに関しては、いきなり巨大なIT投資を行わず、自社でメンテナンスできる範囲でのシステム構築を推奨し、場合によってはシステム構築に関する技術支援(AccessやVBでもプログラミング、Oracle、SQLServerの構築運用の基礎等)もおこなうようにしている。コンサルタントしての作業領域を超えているかもしれないが、必要性を感じるために行っている。
ただ。やはり、運用がシビアな基幹システムに関しては、最初に記述したような理由で、外部に依頼する方がよいと考える場合が多い。外部に依頼する場合は、依頼側にとって便利な反面、さまざまな問題が発生することがある。外部に依頼する場合、その契約形態が様々である。具体的には、請負契約、派遣契約、委任契約がある。前置きが長くなったが、ここで、それぞれの形態の特徴をまとめておきたい。
それぞれの特徴は「システム監査(アイテック)」より、引用させていただいた。
1)「完成」が定義できる業務を発注する場合の契約形態
2) 委託先の総合的な能力に期待
3) 委託先には完成責任、瑕疵担保責任がある
4) 著作権は原則として受託側にある
5) 指揮命令は受託者側にある
1) 業務内容に制限がある
2) 派遣要員個人の能力に期待する契約であるが、要員をあらかじめ指名することはできない
3) 外部要員に関して知ることができるのは、氏名、性別、年齢のみ
4) 派遣要員には、原則として完成責任も瑕疵担保責任もない
5) 派遣要員の1回の派遣期間には限度があり、延長は再契約が必要
6) 委託側にも労働者派遣法に伴う義務が多く発生
7) 原則的には派遣要員を派遣した側には著作権がない
8) 指揮命令は委託者側にある
1) 業務の内容に制限がある
2) 原則的に業務の完成責任を負うものではなく、また成果物を伴わなければならないものでもない
3) 暇疵担保責任はない
4) 義務として、進捗報告義務、終了報告義務、善管義務(善良なる管理者の注意義務)のみがある
5) 指揮命令は受託者側にある
当然の事だが、どの契約がよいか一言で言えるものではない。逆に言うと、どの契約形態にするかが、情報化戦略の一つの要になると思う。特に重要なのは、成果物に対するバグなどの暇疵対応責任で思う。「請負契約」の場合は、通常1年間は受託側にある。また「派遣契約」や「委任契約」の場合は、要員を派遣した受託側には瑕疵担保責任がない。
そしてもうひとつ考えておかないといけないことが、外部に依頼した作業完了後の自社の保守体制の確立である。この部分で苦労している企業が多いと思う。私が、「極力、自社の出来る範囲で」と考えている大きな理由がここである。現在、システムの開発ツールは非常に充実している。また、様々なパッケージソフトも発売されている。情報化戦略として、いきなり外部ベンダーにシステム構築を丸投げすることは「愚策」と考える。自分たちの出来ることを考えて、必要であれば有識者にアドバイスを求め、自分たちの体のサイズにあったシステムで情報化を推進していくのが、理想だと思う。ただ理想と現実は異なることが多いので、このあたりの意思決定が難しい。
参考文献
「システム監査(アイテック)」
2005年4月18日 宿澤直正 記
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