[事務所TOP] [コラム一覧へ]

ポイント:特許権、知財、知識財産権、新規性、進歩性、特許権無効、知財戦略

知財戦略のターニングポイントになるかも


松下電器産業の知財戦略の誤算

 松下電器産業がジャストシステムのワープロ「一太郎」に特許権を侵害されたとして、争っていた裁判で一審では松下の言い分が通り、二審ではジャストシステムの逆転勝訴となった。

 世論(ネット世論とでも言うものか・・・)ではジャストに追い風が吹いていた。松下の今回の行動を「弱いものいじめ」との書込みが横行し、果ては松下商品の不買運動を呼びかける動きまで出た。松下関係者は「特許を主張すればライセンス料を払うと思っていた」そうだ。そんなに気軽に訴訟をおこしたとは思えないが、松下は今回の一件で企業イメージダウンなど予想以上のダメージを受けてしまったと思う。

 ジャストシステムが一転して逆転勝訴しは理由は、ジャストシステムの提出した海外の文献だそうだ。今回、松下の特許に似た考えがその文献にはすでに紹介されており、特許の要件である産業上利用可能性、新規性、進歩性のうちの新規性にあたらないと知財高裁は判断したようだ。

特許権の3つの要件

 産業上利用可能性、新規性、進歩性のうちの新規性は特に判断に時間がかかる箇所であると思う。そもそも知的財産権のひとつである特許権とは何であろうか? 特許法上は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいう。私のようなほんの少し知財の知識をかじっただけの専門家ではない人間には、この「高度」という定義がわかにくい。同じ知識財産権でも商法権や意匠権との違いは分かりやすいが、いわゆる「小発明」の実用新案権の線引きがいまいち分からないのが正直な感想である。

 また、先述した特許権をみとめる3つの要件も、言っている事は分かるが、その判断は難しいと思う。3つの要件をもう少し詳しく説明すると・・・

産業上利用可能性(特許法29条1項柱書)

 発明を利用することにより産業の発展を図ることができることを意味する。知財戦略上、産業に利用できないもので特許権を取得してもメリットがないことは明白なので分かりやすいといえば分かりやすい。しかし、今現在の発明を将来にわたって役に立たないと判断できるのであろうか? そんなわけで、よく理解できない特許が存在するのかもしれない。

新規性(特許法29条1項1〜3号)

 今回、ジャストシステムが逆転勝訴した要件である。新規性の定義とは「発明が未だ社会に知られていないものであること」である。ジャストシステムの提出した海外の文献にすでに似たような使い方が発表されているので、特許として認められないとの事である。

 近年インターネットが急速に発展し、発表される文献も過去の比ではなくなった。これらインターネット上の文献で既に発表されている場合でも、一部の場合を除いて新規性を喪失するされている。この新規性の要件を「確実に」満たすためには、いったいどれだけ文献を調べればよいのか気が遠くなる。

進歩性(特許法29条2項)

 この要件は「業者が特許出願時の技術常識に基づいて、容易に発明する事ができないもの」とある。??の状態だが平たく言うと「常識的な技術で簡単にできてしまうものはダメだよ」という事である。

 この進歩性の要件も非常に重要であり、一旦は特許権を付与された発明であっても、特許法123条の無効審判などにより、進歩性がないとして特許権が遡及して消滅する場合もあるようだ。

知財戦略のターニングポイントになるかも

 以上、特許権の基本的な事を書いてきたが、今回時事コラムにこのテーマを選ばしてもらった背景には「歴史が浅いソフトの分野の特許訴訟では、裁判所の判断基準が見えにくい。そのため企業は訴訟に持ち込んでも勝てるかどうかの見極めが難しい。」ということであり、企業の知財戦略に影響を与える重大な判決と思ったからである。

 松下電器産業は「特許権は自分にあるのだからライセンス料がとれるだろう」と訴訟に持ち込んだ。特許権という企業のもつ知識財産を有効に使う当然の戦略であると思う。ところが結果は企業イメージをダウンさせるという、金額に換算できないダメージを受ける事になった。

 この誤算を生む要因として最も大きなものは2000年に最高裁が「裁判所も特許の有効性を判断できる」との判例を出し、その結果、特許庁と裁判所のそれぞれが特許有効性を判断し、場合によっては無効に出来るようになったことである。ちなみに2000年以降、特許庁が認めた特許の半数弱(98/229)を裁判所が無効と判断している。この理由としては特許の出願件数が増え、特許庁での十分な審査が追いつかなくなってきているという背景がある。

特にソフトウェアのように多くの特許が出願され、技術革新も著しい分野では、今後も特許の無効判断がされる可能性は十分ある。各企業の知財戦略の見直しのきっかけになるかもしれない。

2005年10月03日 宿澤直正


[事務所TOP] [コラム一覧へ]

Copyright (C) 2005 宿澤経営情報事務所