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ポイント:電子カルテの導入、保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン、診療情報のデータベース、医療機関ネットワーク

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電子カルテの導入のメリット


  電子カルテの導入が進んでいる。厚生労働省が公表した「保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」のなかで、その導入に関して具体的な数値目標を示した。その目標達成期限と定めた2006年度が近づくに従い、さらに電子カルテの導入は加速されていくものと思われる。

 

 しかし、電子カルテなどの情報システムを導入すること自体が目標になったり、電子カルテの普及目標数値のみが強調されるのは好ましくない。「なぜ、電子カルテを導入するのか」をそれぞれの病院が、自らの経営課題に照らし合わせて考えていく必要がある。「電子カルテ」と言っても、それには様々な機能が定義されている。しかし、それらの機能を全網羅した電子カルテは存在していないし、存在する必要もない。それぞれの経営課題をクリアするための情報化戦略を立案し、それに従ってどのような電子カルテを導入すればよいのかを十分検討する。機能が豊富すぎる情報システムは医療現場を混乱させるだけである。このあたりは一般企業での情報システムの導入と同じ考え方でよい。

 1999年に診療記録を電子媒体で保存することが認められた。これによって電子カルテが登場したのだが、普及が思うように進まない現状がある。それは「導入メリットがわかりにくい」、「システム構築から維持管理費用まで含めたコストの問題」、そして最近特に言われる「情報セキュリティや個人情報の漏洩への不安」などが医療現場の導入意欲を阻害しているものと思われる。特に「導入のメリット」がわからない限りは、コストやセキュリティに不安をかかえるシステムの導入に重い腰をあげる病院も少ないのも理解できる。

 電子カルテの導入のメリットについて考えてみる。電子カルテを単なる「診療記録を電子化したもの」と考えると、その導入メリットは一部しか享受できない。電子カルテを診療情報のデータベースと考えれば様々な活用方法がみえてくる。医療情報システム開発センターの開原成允理事長がその論文「電子カルテ開発に向けたMEDIS−DCの取り組み」の中でわかりやすくメリットを紹介している。

 第1は、ぺーパーレスな診療体制である。診療には、紙のカルテ、紙の伝票、X線フィルムなど、紙などの媒体が非常に多く使われているが、これらをすべて電子化して、紙もフィルムもなくした診療体制を作ることが出来る。これにより診療は効率化するのみでなく、保存スペースが飛躍的に少なくなる(診療の効率化)

 第2に、診療情報の多目的な利用が容易になる。すなわち、電子カルテには診療情報のすべてが入っているから、ここから、診療報酬請求明細書、紹介状、さまざまな証明書や審査書類などを容易に作ることが出来る。また、作るのみでなく、必要があれば、それを電子的に送付することも可能である(診療情報の多目的利用 )

 第3に、診療情報を蓄積し、データベース化して、病院管理、経営分析、臨床医学研究などに役立てることが出来る(診療情報データベース)

 第4に、診療支援情報を診療の場に直接提供することが出来る。例えば、薬剤の添付文書や診療ガイドラインなどを画面上に表示したり、医師の入カや患者の情報を組み合わせて種々の警告を画面上に表示することも出来る(診療支援)。

 第5に、電子カルテを複数の医療機関で共通利用して診療ネットワークを形成し、患者が病院と診療所の間を移動しても、同じ情報を利用出来るようになる(医療機関ネットワーク)

 第6に、電子カルテを患者への情報開示の手段として用いることが出来る。例えば、病院にある電子カルテをインターネットで患者が白宅で見ることが出来るようになる(診療情報開示 )

 このように様々なメリットを考えることができる。しかし、これらのすべての機能を備えた電子カルテはまだ存在せず、先に述べたように、現段階では、これらの機能の一部を実現しているに過ぎない。よって、それぞれの病院が、自らの経営課題をクリアする情報戦略を立案しそれにのっとって電子カルテシステムの構築を行うようにする。

 日経ソリューションビジネス10/15号に一般生活者を対象とした電子カルテについてのアンケート結果が掲載されていた。それによると「詳細を知っている」「概要を知っている」の回答者は全体の27.5%であり、まだまだ低いと言える。今後は電子カルテに関して病院側だけでなく、患者側へのメリットも考慮して一般生活者にPRしていく必要がありそうだ。


参考文献
 「電子カルテシステムの普及に向けた厚生労働省の取り組み(本和彦)」
 「電子カルテ開発に向けたMEDIS−DCの取り組み(開原成允)」
 「日経ソリューションビジネス10/15号」

2004年11月8日 宿澤直正


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