ポイント:IT業界、会計基準、見積書、契約書、一式契約、SOX法
経済産業省が2005年8月11日に「情報サービスにおける財務・会計上の諸問題と対応のあり方について」と題する報告書を発表し、これからのIT取引のあり方を明記したガイドラインを示した。当事務所のアクセスログを見ると、時事コラムの「内部統制の強化の促進−日本版SOX法−」へのアクセス数が急上昇中である。検索で使われるキーワードも「SOX」というキーワードは大変よく使われているようだ。この事からも、財務・会計に関する意識は非常に高まっているといえる。
「日経コンピュータ10/17号」の記事でも、日本版SOX法の制定が迫り、企業会計や決算書に不正がないことが企業価値を左右する時代が訪れた、とある。正しく私もその通りであると思う。
IT業界は、財務・会計への意識が決して高い業界とはいえないと思う。それは、見積書でよく見かける「ソフトウェア構築費用一式」とい「一式」という考え方である。そもそも「一式」ほどあいまいな言葉はない。見積もりを作るほうも、見積もりを受け取るほうも、日本語として同じ「一式」であるが、受け取り方は随分と違うと思う。「一式」で見積もりを出す方は、無意識のうちに最小限度の仕事を意識している。一方で見積もりを受け取る方は、無意識のうちに最大限度の仕事を意識していると思う。人は無意識のうちに自分の都合のよい様に考えてしまうものであり、これは決して悪ではない。性というものである。
ただビジネスにおいて、この認識のギャップがトラブルになる事は誰もが経験している事である。その認識のギャップを少しでも双方で認め合えれるようにするツールが文書である。文書にすることによってお互いの認識を「見える化」して、ギャップを埋めていく事が大切である。そして、そのギャップを最終的に双方が納得して作る文書が契約書である。
見積もりから契約に至る作業を簡略化してしまうと、契約内容が「一式」という危険な契約になってしまう。先に述べた「認識のギャップを双方で認識する」というフェーズはプロジェクトのどこかで必ずしなければいけないフェーズである。IT業界では、知らず知らずのうちに「認識のギャップを双方で認識する」というフェーズをプロジェクトも終盤にかかったところで、もめながらする事が多い。このようなプロジェクトは、「死の行進プロジェクト(デス・マーチ・プロジェクト)」になりかかっていると言える。
経済産業省の出した「IT取引のあり方を明記したガイドライン」では、「一式契約」そのものの禁止を求めている。このガイドラインをもとに企業会計委員会が2006年中にIT業界に向けた会計基準を策定する予定だそうだ。その中にどのように盛り込まれるのかは分からないが、早めに「一式契約」を無くすような社内ルールを定めておいた方がよいと思う。
参考「日経コンピュータ10/17号」
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2005年11月07日 宿澤直正 記
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