ポイント:J-SOX、金融商品取引法、日本版SOX法、内部統制、実施基準、監査基準、ステークスホルダー、本来の意味
日本版SOX法の実施基準に関しては、9月〜10月ごろに草案が出され、年内に正式決定するとの見方が有力になっています。金融庁企業会計審議会内部統制部会長の八田進二氏(青山学院大学大学院教授)は9月1日の講演で、そう話したそうです。
その講演で八田氏は、日本版SOX法(金融商品取引法の一部)への企業の対応について「内部統制は経営者が主人公となって行わないといけないが、実際は部下やコンサルティングファームに対応を任せる”経営者不在”、”第三者依存”が蔓延している。それでは駄目だ。」と語ったそうです。確かにその通りだと思います。
日本版SOX法に企業が対応するうえでの具体的なガイドラインとなる実施基準の公表が、当初予定から大幅に遅れているのは事実です。しかし、実施基準が早々に公表されたからと言って、経営者主導で対応が進められたかというと、そうではないと思います。
実施基準の遅れが様々なドタバタ劇を起こしているのは事実だと思います。日経コンピュータの2006/9/4号では特集で「J-SOX狂想曲」というタイトルがついていました。「今のドタバタ劇を良く表したタイトルだなぁ」と思いました。
日経コンピュータによると、5月から8月中旬までに日本版SOX法に関しての書籍が約30冊出版、そして7月だけで関連セミナーは150回以上開催されたそうです。関連商品、サービスも次々出てきています。私も恥ずかしながらセミナーをさせていただいているのであまり大きなことは言えませんが・・・。
このような状況で、そもそも「日本版SOX法(金融商品取引法)」が、何で必要になったのかという、そもそも論に立ち返る必要があると思います。
もともとSOX法は、アメリカのエンロン、ワールドコムの粉飾決算等で生じた、投資家の不安を無くすために内部統制を強化する責任が企業にはある、というスタートでした。つまり「投資家の不安を無くすため」に「公開した決算書に責任をもちましょう」というのが、SOX法のそもそも論です。「金融商品取引法」の一部に組み込まれているのもそのためだと思います。
「公開した決算書に責任をもちましょう」は当たり前の話のように思います。なぜ、ここまで大騒ぎになっているのでしょう。理由は色々あると思います。
ひとつは、アメリカでのSOX法対応では、企業に莫大な金と時間がかかっている経緯が伝わったことのためだと思います。アメリカSOX法と日本版SOX法の違いをよく理解する前に「とても大変らしい」という情報が伝わってきました。アメリカのSOX法では予想以上に企業への負担が大きかったため、その負担軽減の考えが日本版SOX法の監査基準にはいくつか適用されています。そして、本家のアメリカでも負担軽減の考えでSOX法の見直し論がおこっています。
もうひとつは、日本版SOX法の監査基準に「ITへの対応」が入り、その意味が正しい理解がされぬままキーワードが一人歩きし、これに企業やITベンダーが過剰反応してしまった結果だと思います。もともと「ITへの対応」は、現在、インフラもしくはアプリケーションとしてITを使っていない企業はないでしょう、といった意味で盛り込まれた内容です。全てをITで内部統制しろという意味では全く有りません。
日本版SOX法(金融商品取引法)を考えるとき、もっと大切な事があります。それが、そもそも論で出てきた「投資家の不安を無く」という部分です。これは投資家だけでなく、ステークスホルダー全般に置き換えて考えたとき、今、各企業が取り組んでいる法令順守、内部規程の整備は、そのまま内部統制の強化になります。
これらは、罰則があるからだけの理由で行なっているのでしょうか? そうでは無いと思います。競争力をつけるために、経営者視点で行なっている企業活動だと思います。強くなった企業をステークスホルダーに見せ、安心と協力をえるのが、本来の目的でないでしょうか?
ここで最初の話しに戻りますが、このような活動を「経営者不在」もしくは「第三者に任せきり」では行なわないと思います。日本版SOX法の実施基準に基いて、とりあえずこの脅威(日本版SOX法)乗り越えようと考えていると、かえってコストがかかり、そして企業に何も残らないという状態になると思います。それでは全く意味が有りません。
日本版SOX法の道具やサービスのみに目をやってしまうと「ステークスホルダーへの安心の提供」という本質を忘れてしまう可能性があります。注意すべきだと思います。
ただ、日本版SOX法が及ぼす影響として、むしろ怖いのは直接対象となっていない中小企業です。日本版SOX法が中小企業に及ぼす影響は、またコラムに書きたいと思います。
参考
「日経コンピュータ9/4号」
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2006年10月09日 宿澤直正 記
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