ポイント:ビジネスブログ、リスク、トラブル、双方向性、ネット波及度、プライバシー、解雇、情報漏洩、コミュニケーション
リスクとメリットは表裏一体である。ブログがコミュニケーションツールとして優れていることは間違いない。その優れたツールを活用するために、そこに潜むリスクも知っておく必要がある。
ブログをビジネス活用するには、情報の内容と新鮮さ、更新のタイミング、適切な返信コメントなどが重要な意味をもってくる。価値のある情報をタイムリーに発信していくには、ブログへエントリーを書く人の一人一人がその責任の重さを認識する必要がある。企業サイドからみれば、ブログは気軽に始めることが出来て、気軽にエントリーを投稿することができる。一方の顧客サイドから見れば、コメントやトラックバックを使い、本来なら声の届かない企業に対して直接的に声を届ける事ができる。
ブログは普通のホームページの運営よりも難しい部分がある。それはそれは本来、ブログのメリットであるエントリーの容易さ、双方向性の機能充実により、コミュニケーションのスピード、質が従来のホームページよりも高いレベルで求めてしまうことである。あるビジネスブログが閉鎖に追い込まれたトラブルがあったが、それは、企業側の予想を超えた「顧客の反応の速度」にある。ブログといえども「会社としての回答」となる重みを十分認識していなかったのではないかと考える。
予想を超える顧客からの反応の速さにブログの担当者は回答を時間かけて十分検討することができず、不十分な回答で発信してしまったのではないかと思う。その回答は顧客を満足させるものではなく、それに対してまた不満の回答が返ってくる。そのやり取りがブログという誰もが見える場で行われてしまったのである。
ブログはインターネットでの波及が大きいという本来のメリットも、一旦、負の関心が高まると大きなリスクになる。そして、どんどん悪いスパイラルに陥ってしまうのである。とうとうそのやり取りの中で「やらせではないのか」という意見が出始め、結局は顧客の信頼を失い、そのビジネスブログは閉鎖に追い込まれてしまったのである。
ビジネスブログの事例をしらべているとその効果に「不特定多数への情報発信をブログにしたのでメールの数が減った」という意見が多くあった。この事例は、ブログという新しいコミュニケーションツールの特性をよく理解し、正しく使った為の効果である。
しかし、ブログの双方向性に関する特性を理解せず運用してしまうと、失敗につながる。ブログの他にもコミュニケーションツールは多く存在する。メール、メーリングリスト、ネット掲示板、最近ではSNSも注目を集めている。それぞれにはメリット・デメリットが存在し、状況や用途によって、使い分けるべきである。
電子メールはメッセージの送り手が受け手を特定している。つまり読んで欲しい相手がわかっていてメッセージを送信しているのである。メーリングリストも相手が複数になるだけで基本的には同じである。
しかし、掲示板やブログでは、会員システムのような制限をしていない場合、エントリーやコメントを不特定多数の人が読む可能性がある。場合によってはそのエントリーやコメントのやり取りから、誰かが個人を推定してしまうかもしれない。その推定が的違いの場合はまったく別の他人に迷惑をかける可能性という二次被害も想定できる。本来このような窓口相談のような個人的なやり取りの経緯を公開するものではない。個人的なやり取りであれば、メールで行うべきである。
ブログの持つ双方向性は、情報の交換や議論が読者にとって興味あるものの時に有用である。しかし、その経過に意味の無いやり取りを掲載していくのは極力避けるべきである。
ブログやネット掲示板には匿名性があり、それ故に発言への責任の軽さから、急速に利用者が増えたともいえる。しかし匿名性のあるサイトはいくつかの問題点がある。総務省は昨年6月27日、自殺サイトなど「悪の温床」ともいわれるネットを健全に利用するために、ネットが持つ匿名性を排除し、実名でのネット利用を促す取り組みに着手する方針を固めている。
匿名性があることによって考えられる最大のリスクは、トラックバック・スパムとコメント・スパムである。 読者には多種多様なヒトがいて、様々な意見がトラックバックやコメントを通じて届けられる。中には会社への批判や、商品へのクレームもある。しかし、それが真実であったり、誤解から生まれた異見だったりした場合は真摯な態度で臨むべきである。
しかし、匿名をよいことに、一方的に悪意をもってトラックバックやコメントを使い企業を直接攻撃してくる事がある。このようは「スパム」攻撃には、理由を示して削除するといった対処が必要になってくる。ただ、むやみに削除してしまうと、そのブログは「度量の狭いブログ」との印象を与えてしまうので、注意が必要である。「正当な意見」か「スパム」かの判断に迷うような場合は、やはり「正当な意見」としてまずは扱う必要がある。ブログで社内機密を漏らしたという事で、解雇された例は日本ではまだ聞いた事が無いが、アメリカではかなり多い事例がある。
ブログに対する自分の会社の姿勢を知らない社員や、明確な方針を示していない企業で働いている社員が、仕事に関連するエントリーや写真をブログに掲載すると、結果として、突然解雇といった事態に陥ることにもなりかねない。
米国非営利団体の電子フロンティア財団(EFF)で言論の自由の問題を扱う知的所有権専門の弁護士、ウェンディ・セルツァー氏は、企業は自社の従業員がブログを運営している可能性があることを認識し、ブログに関する明確な方針を作成するべきだと提言している。「今、この時点で、コンサルタントたちがブログをマーケティング活動に織り込むよう、企業の説得を始めていたとしてもおかしくないほどなのだから」とセルツァー氏は言っている。
リスクと表裏一体ではあるが、ブログの良いところは、自由に個人が主張できるところである。個人が自由に主張できるためにも、企業はブログの世界で何が許され、何が許されないかを社員に対して明確にする必要がある。
ブログはRSSやアップデートピングにより、ネット上の波及効果が非常に大きい。そのため、一旦、企業と消費者との間、また企業同士に誤解が生じると、その誤解は疑惑を生み、そこから企業がうけるダメージは大きい。Sunの社長ブログに対する、HPの反論が話題になったが、社会的影響の大きさに関わるトラブルの一例である。
社長が個人的な日記として書いていても、それは会社としての意見となる。たとえ真実の意見であったとしても、このようなトラブルが会社の経営に大きな影響を与え、場合によっては株価下落という最悪のシナリオも予想される。社会的影響力のあるヒトの書くブログは他のリスクも考えられる。社長ブログはブログのビジネス活用の代表例であるが、社長という社会的影響のあるヒトが自分の行動、プライバシーを日記形式で公開するというのは、そのリスクも考えておかなければならない。最悪のシナリオであるが、誘拐や暗殺などの事件に巻き込まれてしまう可能性が無いとは言い切れない。
これまでいくつかのビジネスブログのリスクをみてきた。ブログには、どのようなリスクがあり、その影響と発生頻度を正しく分析し、リスクに対しての回避、分散、軽減などの対応策を検討しておくことはとても重要である。
参考
「実践ビジネスブログ(松本英博著)」
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2006年03月20日 宿澤直正 記
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